連載 「ベンチの目」 辻真以子

<2003年編>


7月13日

 世の中に「野球好きな人」は大勢いますが、「野球を愛する人」はどれくらいいるでしょうか?世の中に「草野球チーム」は星の数ほどありますが、「草野球に一生懸命なチーム」はどれくらいあるでしょうか?
 私はまだ数時間しかキングスを見ていません。
 でも、試合前の練習、試合中のプレー、ベンチでの様子、試合後の会話などから、キングスは「心の底から野球を愛する人」が集まった「野球に一生懸命なチーム」なのだと感じました。
 そしてそこに、ゾクゾクっとするほどの「カッコ良さ」を感じてしまいました。
 まずは、皆さんとの出逢いをくれた「野球の神様」に感謝します。
 これからよろしくお願いします。


7月20日

 13日の試合は、初回の怒涛の5連打で試合が決まったと言っても過言ではないと思います。
 でも私は、試合開始前に「勝負は決まった!」と感じていました。 もちろん、キングスの大勝利です。
 監督と私がグランドに到着した時には、小雨の降るなか既に和田さんがグランド整備を始めていました。
 メンバーが集まってくると、全員が当たり前のように整備に参加。相手チームの姿はまだありませんでした。
 キングスにとっては当たり前の光景なのかもしれません。
 でも、「試合をしたい!」という一心で整備をする皆さんの姿に、私の心は撃ち抜かれました。そんな気持ちや行動こそを、野球の神様は見ているのだと思います。
 お天気が何とか持ちこたえたのも、きっと皆さんの力です。
 キングスの一員であることを誇りに感じた、13日の日曜日でした。


8月31日

 先週は素晴らしい試合を見せていただき、ありがとうございました!
 2試合目に勝った最大の要因は「グランドの空気を支配していた」ことにあると思います。
 2試合目が始まる直前、両チームのベンチは非常に対照的でした。1秒でも長く休みたいキングス。
 すぐにでも試合を始めたい、待ちくたびれた様子の相手チーム。
 あの時、グランドの空気は間違いなくキングスの支配下にありました。
 1試合目の興奮が残ったあのグランドは、まるでキングスのホームグランド。相手チームは、やりにくかったことでしょう。
 でも、これが大事なのだと思います。グランドの空気を味方につけてしまう。これは最高の武器です。
 逆に待たされた場合には、その時間を「相手を待つ時間」ではなく「自分たちの貴重な時間」に変えなければいけないのだと思います。
 今日の試合は楽しめましたか?
 キングスらしい全員野球はできましたか?
 そして、グランドを空気を支配することはできましたか?


9月14日

キングスの皆さんへ

 私にとって、キングスは元気の源です。皆さんのプレーを見ていると、パワーが湧いてきます。皆さんは自分たちのためにプレーしているのだと思いますが、その姿が他の人にも影響を与えているのです。こうなると、単なる草野球ではありません。そこにはとても価値がある。社会的貢献をしていると思うのです。「草野球で社会貢献」・・・最高です(ちょっと大袈裟かな?)。ただプレーしているだけでは、感動は与えられない。パワーや元気も与えることはできない。皆さんの姿勢や気持ち、行動の一つ一つが、私の心を動かしているのだと思います。これからも、今まで通りに野球を楽しみ、野球を愛し、元気なプレーを見せてください。それだけで、見てる私は幸せを感じることができるので。

キングスの大ファンより


9月23日

 キングス全員が『一球入魂』で野球に向かっていると思いますが、私は彼のバッティングに対して、特に『一球入魂』を感じます。彼は出場機会が少ないのですが、打席に立つと毎回出塁しているような印象があります。
 14日もそうでした。少ない機会でヒットが打てるなんて、すごいですね」と言うと、彼は「集中してるからね」とあっさり言いのけました。格好いい・・・。どんなに努力しても、素振りをしても、結果の出ない人はいます。打席が多ければ結果を出せるけれど、1回では全くダメという人もいます。
 彼が少ない打席でも結果が出せるのは、熱意と努力と実力とそして『一球入魂』・・・集中力の高さからなのでしょう。彼が打席に立つと、何とかしてくれる、また打ってくれる、と私は期待してしまいます。そんな「彼」の指揮だからこそ、皆さんがついていくのでしょうね。「彼」なんて呼んですみません。これからも『一球入魂』を見せて下さい、監督。


10月5日

 私は大学で女子野球部に所属していました。全国で30校くらいにありますが、やはり強いのは、日体大などソフトボール経験者が多く、体格の良い選手が多い大学です。
 私のいた大学は、入部して初めてボールを触る人がほとんどでそんな素人集団が、どうすれば体育大を倒すことが出来るのか・・・そんなことばかり考えていた4年間でした。
 「ヒットがなくても点が入るような野球の勉強」「相手より先に練習を始めて、焦らせる」「審判を味方につけるような態度」「相手の驚くような声・応援」・・・などなど、経験や素質の部分を何とか埋めようと、練習の他にも笑えるような努力を大真面目にしていました。
 あの時間があったからこそ、キングスの皆さんに出会うことができ、共感できたのかもしれない・・・そう思うと、大した成績も残せなかったあの4年間も、決して無駄ではなかったと幸せに感じます。
 野球っていいな、と改めて感じる今日このごろです。


10月27日

 第一話
 雨天中止の12日、会長とのデートの後にどうしても野球が見たくなり、二子玉川で下車。一人野球場へ向かうと、一面だけ草野球をしていました。食いつくように見始めましたが、打者はヘルメットなし、守備は帽子なし、ベンチからは「派手に行こう」の声…レベルはまあまあでしたが、つまらないので2分くらいでその場を去りました。
 反対側に歩いていくと、小学校低学年くらいの子供たちがノックを受けていました。決して上手い子ばかりではありませんでしたが、「来い!」の声、ボールを必死に追いかける姿、うまくいくまで「もう1本!」と何度もボールを呼ぶ姿勢、子供以上に張りきるお父さんたち…思わず時間も忘れて見入ってしまいました。人の心を動かすのは上手・下手ではなく、やはり情熱やひたむきさなのだと改めて感じました。皆さんは今まで通り、純粋に、がむしゃらに白球を追いかけ続けてください。そして、見ている人の心を動かし続けてくださいね。

 第二話
 世のお父さんたちの休日は、家でゴロゴロ?家族サービス?映画、パチンコ、囲碁、将棋、競馬…??多くの選択肢がある中で、キングスのお父さんたちは「熱い草野球」を選んでいます。平日は仕事で真剣勝負。休日は家族に呆れられながら(違ったらごめんなさい)、野球で真剣勝負。当たり前のように毎週グランドに集まっていますが、そこには見えない努力があるのだと思います。さて、先週の試合。相手は若いし、体もできているし、何より上手でした。
 でも、そんな彼らにはできない野球が、キングスにはできると思います。言うなれば、「背中で語るプレー」「年輪を感じさせるバッティング」「味のあるキングス野球」。年齢や体力、個人の力だけでは勝負が決まらないのが、野球の醍醐味。キングスの戦うお父さんたち、若造チームに負けてなんかいられませんよ。彼らにはできないプレーを、存分に見せつけてください!そしてチームを勝利に導いてください!!


11月3日

 私は皆さんを見ていると、幸せを感じます。楽しそうに野球をしている姿を見るだけで、嬉しくなります。
 その中でも特に先週は、彼の姿を見て喜びを感じてしまいました。1試合目の終盤から、彼は2試合目に向けて肩を作っておきたいと準備していました。グランドを移るとすぐに、楽しそうに投球練習を始めました。
 その姿はキラキラと輝いていて、野球人の魂・オーラを感じさせました。本当に野球が楽しくて仕方ないんだなぁ、投げるのが楽しみなんだなぁ、と思わず私もニコニコ。
 2試合目の途中から、相手チームの彼に対するヤジが激しくなりました。私はそのヤジに対してイライラしていたのですが、平然と投げ抜く彼の姿が頼もしかったです。彼の熱い気持ちの伝わるプレーや、存在感のある声で、キングスはこれからも支えられていくのでしょう。
 頼りにしてます、涌井さん。これからもよろしくお願いします。


11月16日

 「この人たち、本当に熱い!」
 決勝前の数日間、メールで交わされた質問・意見・気合い・戒めに、私は思わずこう呟いていました。
 いよいよ試合開始。でも、勝って当然、負けるはずがないという自信と気合が生み出す無言のプレッシャー、ピリピリした雰囲気…お祭り騒ぎとはかけ離れた、重い空気がキングスを覆っていた気がします。足を絡めた攻撃、トクナオさんのノーヒットノーラン、エラーなしの堅い守備。結果としてキングスらしい全員野球で決勝戦を制したわけですが、やっぱり勝つのは難しい!
 4回勝ち続けるのはとってもとっても難しい!というのが率直な感想でした。
 全員一丸となって勝ち取った優勝は私にとっても格別で、しばらく喜びに浸っていました。
 でも決勝後の数日間、メールで交わされたのは喜びだけでなく、今後の課題・目標・連覇への意欲などでしたね。
 「この人たち、本当に熱すぎる!」
 常に上のレベルを目指す草野球戦士たちに、私はまたもやこう呟いていました。


11月23日

 第一話
 朝グランドに着いて最初に耳に入ったのは、前週の反省をしている彼の声でした。
 悔しさは伝わってきましたが、「まだ引きずっているのかなぁ」と不安にもなりました。
 そんな不安が吹き飛んだのは、1試合目の守備。難しいフライを大きな声でアピールし、しっかり捕球。
 反省を生かした、大きくて気持ちのこもった声でした。
 この声を聞いた瞬間に、「今日の彼は違う!何かを起こしてくれるかも…」と感じました。
 私の勘を確信へと導くかのように、彼は素早いバックアップ、ライトゴロとファインプレーを連発。そして、7回裏の大チャンス。何とかしてくれるとは思っていましたが…全員が総立ちとなった、値千金の3塁打!!
 最高のガッツポーズは今でも目に焼き付いています。土壇場での同点劇。奇跡ではなく、チームの力と、彼の努力やひたむきな姿勢がもたらした必然的な結果だと思います。
 キングスでは全員がヒーローですが、あの日の金メダルは彼にあげたい。
 16日の藤田さんは眩しいほどに輝いていました。

 第二話
 私はよく忘れものをします。大概は何とかなりますが、どうしようもないものもあります。
 悔やみきれない忘れもの、皆さん経験がありますか?
 6年前の夏、主将として臨む最後の公式戦。相手は強豪、日体大。
 私は4年間の全てをぶつければ必ず勝てると信じていました。
 離されては追いつくシーソーゲーム。1点リードされて迎えた6回裏。何とかチャンスを作りたい場面で、打順が回ってきました。ツースリーまで粘った最後の1球。私は低いと判断しましたが、判定はストライク。4年生の夏、最後の打席は見逃し三振。結局追加点は取れずに1点差で敗退し、私たちの夏は終わりました。あのボールを打つために、毎日素振りをしていたのに…。低めが打てるようにと、必死で練習していたのに…。手が出なかった。手を出せなかった。手を出さなかった。「フォアボールになれば…」4年間の全てをぶつけるべき時に、そんな弱気が一瞬でもよぎるなんて。今でも時計の針を戻したい衝動に駆られます。グランドに大きな忘れものをしたまま、私は野球から遠ざかりました。
 忘れものを取り戻すために、マネージャーになったわけではありません。自分でプレーをしなければ、それは取り戻せないのかもしれません。
 でも、キングスの活動に足を運んでいるのは「何か」が得られると考えているからです。既にたくさんのものをいただきましたが、与えてもらうばかりでなく、皆さんにグランドへ大きな忘れものをさせない、そんな力にもなれたらと思います。
 たかが野球、されど野球。いろいろな思いが詰まっているからこそ、楽しいのかもしれませんね。


12月7日

 皆さんにとって、今年はどんな1年でしたか?
 私にとって今年最大の出来事は、何と言っても『キングスとの出会い』。
 本当に最高の1年でした。

 最高その@−日曜日が待ち遠しい!
 皆さんのプレーが見たくて、皆さんの役に立ちたくて、日曜日が待ち遠しくなりました。
 キングスのことを考えると、楽しくて楽しくてたまらない。あぁ、最高!

 最高そのA−皆さんからの言葉!
 「辻さんのような、本当に心から野球を愛するマネージャーを探していました」
 「辻さんがいてくれるだけでとっても幸せなのです」
 「これからもどんどん一緒に野球をしましょう!」他にもたくさんあります。もう、涙が出そう。

 最高そのB−心境の変化?
 初めてキングスの試合を見学した7月。私は自分に自信がなく、自分自身が大嫌いでした。
 でも、遠慮なく大声を出し、笑い、怒る。こんなキングスでの自分が、ちょっと好きになりました。
 いろいろな嬉しい言葉を掛けられて、少しは自信を持てるようにもなりました。本当に、皆さんのお陰です。

 さぁ、今年を締めくくる最終戦。皆さんの力は十分発揮できましたか?
 結果はどうであれ、「今年は良い1年だった!」と笑顔で言える試合であったと信じています。
 来週は、皆さんの笑顔の輪の中に私も入れてくださいね。
 う〜ん…やっぱり日曜日が待ち遠しい!!



                                                 
2003年シーズン中
辻 真以子

                                                   

                                               

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