第一回 「打撃の職人・松本秀雄選手」


 もし、東京の水道橋あたりに「草野球野球殿堂」があるとすれば、間違いなく殿堂入りを果たすであろうと思われる選手にキングス草創期の名選手・松本秀雄がいる。
 松本秀雄選手は、国立第一中学校野球部に所属していたが、1年生の時から、その非凡な打撃センスが注目されていた。右投げ左打ちの松本は、中学の時からボールをぎりぎりまで手元に呼び込んで打つという技術を身につけていた天才的な打者として有名であった。東京都の中学野球大会の公式戦でも、相手投手のアウトコースの速球を見事に三遊間に打ち返す技術を見せていたし、甘い球はライトの場外に軽々と運んだ。また、ショートの守備も見事で、軽快なフットワークと強肩で、多くの高校の監督の目にとまった。高校は、当時野球の名門として有名であった都立五商に進む。勿論、1年生からレギュラーとして3番を任されて、巧打を連発、「国立に松本あり」と評判になった。
 中学時代の同級生であった私は、この松本選手を師と仰ぎ、野球を教わろうと思った。松本選手から野球を教わるだけだと、申し訳ないから、私は松本に勉強を教えることとした。松本選手は、毎日、毎日、暇を見つけては私に野球を教えてくれた。バットの握り方、構え方、ゴロの捕り方、そしてスローイングと一から十まで、松本選手は教えてくれた。それだけではない。彼の抱いている「野球哲学」も熱く語ってくれた。これが私の野球の原点となった。
 高校時代、松本選手は試合中に足を痛めて、プロへの道を断念せざるを得なくなった。目標を失い元気をなくしていた彼に私はキングスへの入団を強く要請した。熟慮の末に、松本選手はキングスに入団、その後、多くの選手を育てることになる。現在の広瀬コーチ、涌井選手などは皆松本選手の実力を知っている。

   
                                 
                                  国立キングス球団 会長

                                  高乗正臣
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